墨田区大川公園のゴミ箱から若い女性の腕とハンドバッグが発見される。事件は未曾有の連続女性誘拐殺人事件であることが発覚し、やがてマスメディアを巻き込んだ劇場型犯罪へと発展していく。
2002年度「このミステリーがすごい」をはじめ、高い評価を受ける宮部みゆきの代表作。
以前、「模倣犯」は映画化されたことがある。
映画自体は駄作でその原因もはっきりしているのだけど、原作の方を読み終えた後で、もう二つ失敗した理由に気付いた。
まず一つ目は長大なストーリーを短くまとめようとしたことである。
文庫で全五巻にわたるこの作品、内容も圧倒的で、ひとつの事件を中心として、あらゆる人物のエピソードを重層的に描いている。
その描き方はとにかく圧倒的なくらいだ。事件の被害者はもちろんのこと、事件の加害者、事件に巻き込まれざるを得なかった人々、とにかく些細な人物にまで目を配っていて、そのすさまじいまでの情報量には言葉も出ない。
それに人物一人一人を人生を含めて丁寧に書き込んでいるので、ただ物語上配置させただけの人物と違い、肉感をもって伝わってくる。ラストの方のセリフじゃないけれど、みんな一人一人の人間で、大衆なんて安っぽい言葉で表される存在ではない。
まずその点に読んでいても舌を巻く思いだった。
というか、よくこの情報量の作品を映画化しようと思ったものだ。無謀だとすぐにわかるのに。
二つ目は加害者側から物語を描いたことにある。
もちろんこの作品は事件に対する加害者の論理や言い分も描いている。けれど、それだけで納まっているわけではない。
他にも事件に対する被害者の思い、被害者の家族の思い、加害者の家族の思い、そしてその周囲にいる人たちの思い、そういったあらゆる思いや論理や言い分を(決して互いに重なるものではない思いを)きっちり描いている。
そしてその中で基本的に作者は被害者側の(もしくは事件の影響で傷つかずにいられなかった人々の)思いを酌んで描いているのだ。
そう僕個人はこの作品を事件に巻き込まれてしまった人々の苦悩と希求の物語だと思っている。
とてつもなく、悲しく苦しい物語のはずだ。
実際、読んでいる最中、あらゆる登場人物の心情を重ねてしまい、胸が締め付けられるものを僕は何度も感じた。
しかし映画ではその要素を描ききることに失敗していた。というか明らかにそれ以外の方向に興味が向いているのは明らかだった。その時点で映画自体も失敗する運命にあったのだろうと思う。
ていうか、作者が作品に込めた思いを読み取らない人物に企画を通してほしくないものだな、と心の底から思う。
なんか映画批判めいた内容になってしまったけれど、本書自体はとにかくすばらしい作品だと言っておこう。
間違いなく現代ミステリの中でもトップクラスに位置する作品だ。
評価:★★★★★(満点は★★★★★)
映画は見てないけれど、宮部さんは不服らしかったという話を聞いたことがあります。
たしかに2時間ではとても収まりきらない作品だすよね。
だいぶ前の記事だけど、たしかにそうだと思ったので記入させていただきました。失礼。
小説を読んでいるのでしたら、映画は見ない方がいいですよ、本当。作者が不満というのは僕も聞いていますが、当然だろうなと思います。
小説は本当にすばらしい作品だっただけに残念です。